会社の人間関係や社内部署間のいざこざで、仕事がスムーズに進まないことありませんか?
どんなビジネスでも、邪魔する人間やグループなどは出てくるものです。
相手より優位に事を進めるには、人間の本質を捉え、場を支配できる環境を作る必要があります。
その方策の1つがマキャベリの君主論です。
そこで、マキャベリの君主論を各章に分けてわかりやすくご紹介していきます。
Contents
- マキャベリの君主論とは
- ビジネスに活かせる内容をご紹介
- 第1章 君主国にはどんな種類があり、その国々はどのような手段で征服されたか
- 第2章 世襲の君主国
- 第3章 混成型の君主国
- 第4章 ダレイオス王国は、大王の死後、後継者への謀反が起きなかった。その理由はどこにあるのか
- 第5章 征服以前、民衆が自治のもとで暮らしてきた国を治めるにはどうすればよいか
- 第6章 自分の武力や力量によって、手に入れた新君主国について
- 第7章 他人の武力や運によって、手に入れた新君主国について
- 第8章 悪辣な行為によって、君主の地位を掴んだ人々
- 第9章 市民型の君主国
- 第10章 様々な君主国の戦力を、どのように推し量るか
- 第11章 教会君主国
- 第12章 武力の種類、なかでも傭兵軍
- 第13章 外国支援軍、混成軍、自国軍
- 第14章 軍備についての、君主の責務
- 第15章 人間、ことに世の君主の、毀誉褒貶は何によるのか
- 第16章 気前の良さとケチ
- 第17章 冷酷さと憐れみ深さ。恐れられるのと愛されるのと、どちらが良いか
- 第18章 君主たるもの、どう信義を守るべきか
- 第19章 君主は軽蔑され憎まれるのをどう避けるか
- 第20章 君主たちが日夜築く城塞や、その類のものは有益か、有害か
- 第21章 君主が衆望を集めるには、どのように振る舞うべきか
- 第22章 君主が側近に選ぶ秘書官
- 第23章 へつらう者をどのように避けるか
- 第24章 イタリアの君主たちが、領土を失ったのはなぜか
- 第25章 運命にどう抵抗したらよいか
- 第26章 イタリアを手中におさめ、外敵からの解放を激励して
- おわりに
マキャベリの君主論とは
君主論とは、マキャベリによって書かれた1532年発行の古典です。
1500年代のイタリアは、ヴェネツィア、ジェノバ、フィレンツェなど小国乱立状態。
懐柔や裏切りなどあらゆる駆け引きが繰り広げられ、賢き君主のみが生き残れる時代でした。
そんな時代背景において、君主が権力を獲得・保持し続けるための態度や考え方を論じています。
ビジネスに活かせる内容をご紹介
君主論の構成は、献辞と26章からなります。
各章をご紹介するにあたっての和訳は、中央文庫出版の池田廉訳の「君主論」を参考にしています。
第1章 君主国にはどんな種類があり、その国々はどのような手段で征服されたか
君主国の種類として、世襲君主国と新興の君主国がある
また、征服の手段として、他国の武力によるときと自国の武力によるときがある。
ビジネスに例えると、
世襲君主 | 経営者一族 |
新興の君主 | 有能な叩き上げ社員 |
他国の武力に拠った君主 | 親会社の出向社員 |
といったところでしょうか。
では、次章で世襲君主の支配方法を見ていきましょう。
第2章 世襲の君主国
世襲国家は、父から受け継いだ慣習をおろそかにしなければ、国の保持は難しくない。
なぜなら、世襲君主には、人をしいたげる動機や必要性などあまりなく、どちらかといえば慕われるからだ。
つまり、常軌を逸した悪行で憎まれでもしない限り、領民におのずと好感をもたれる。
第3章 混成型の君主国
新領土を獲得し、もとの領土に併合する場合、2つの領土が同じ地域にあって共通の言語を持つときと、そうでないときがある。
共通の言語を持つとき、征服者は、国の保持にあたり、昔からの領主の血統を消し去るべき。一方で、住民たちの法律や税制に手をつけてはいけない。
他方、言語も風習も制度も異なる地域の領土を手に入れたとき、征服者は現地におもむいて移り住むことが効果的な対策となる。
また、名君は、たんに目先の不和だけでなく、遠い将来の不和についても心を配り、将来の紛争に備えておくべきだ。
なお、ほかの誰かを偉くする要因を作ってしまうと自滅することになる。
第4章 ダレイオス王国は、大王の死後、後継者への謀反が起きなかった。その理由はどこにあるのか
新たに征服した領土は、すべて2種類の様式で統治されている。
1つ目は、一人の君主と、そのほか彼の公僕からなる統治様式。
このような国へ攻撃しようとする者は、相手側の内紛を当てにできず、自力で征服する必要があるので困難を伴う。
一方で、君主の血筋を絶やしてしまえば、民衆の信望を集めるものがいなくなり、恐れるものは1人もおらず国の維持については楽だと言える。
2つ目は、一人の君主と、封建諸侯からなる統治様式。
このような国は、不満分子や変革を望むものが常にいるので、封建諸侯の誰彼かを味方につけ、その国を楽に侵攻できる。
しかし、国の維持については、支援してくれた封建諸侯を重用する必要があり、大きな困難がつきまとう。
第5章 征服以前、民衆が自治のもとで暮らしてきた国を治めるにはどうすればよいか
征服以前、民衆が自分たちで法律を定め、自由な暮らしになじんできた場合、国の維持には3通りの方策がある。
第1は、そうした都市を滅亡させること。
第2に、そこに君主自身が移り住むこと。
第3に、住民に、元どおりの法律の下で暮らすことを許し、友好を保つ寡頭政の政権を国内につくらせること。
第3の方策では、自由や従来の制度がある都市では、これらが逃げ場をなって、絶えず反乱が起きる。
つまり、安全な方策は第1か第2の方策である。
他方、一人の君主の支配下で暮らすことに慣れた都市は、君主は容易に手中にすることができる。
第6章 自分の武力や力量によって、手に入れた新君主国について
征服した国に、新しい制度なり手法を持ち込み、改革を実行することは難しい。
改革を目指す君主が、事業を遂行するのに、他人にお願いしたか、自分でやったかで結論が異なる。
まず、他人に援助を求めた場合、必ず禍いが生まれ何一つ実現できない。
逆に、自分の能力を信じ、自力をふるった場合、めったに窮地におちいることがない。
実例を付け加えると、シラクーザのヒエロンは、古い軍制を排して新しい制度を布いた。
古い交友を捨てて、新しい盟友をつくったのだ。
こうして、盟友や自分の兵士を持つと、この基盤の上に、思うままに建造物を築くことができた。
第7章 他人の武力や運によって、手に入れた新君主国について
ただ運に恵まれ、労せずして君位を得た君主は、国の維持にあたり大いなる苦難にみまわれる。
なぜなら、国を譲り渡してくれた人物の好意と運は変化しやすく、不安定なものだからである。
また、労せず君主となった者は、地位を保つ術を知らない。
これは、味方となり、忠誠を誓う武力がないからである。
つまり、対処する器量がなければ国を維持できない。
第8章 悪辣な行為によって、君主の地位を掴んだ人々
一私人から君主になる方法は2つある。
1つはある種の悪辣非道な手段で君位にのぼるとき。
もう1つが一市民が仲間の市民の後押しで祖国の君位に就くときである。
まず、1つ目の方法について論じる。
アガトクレスといった人物は裏切りや残虐の限りをつくしたのに、自分の領土で長らく安穏に暮らした。
結果、一度も市民の謀反にあわなかった。
それは、残酷さが立派に使われたからである。
残酷さが立派に使われたというのは、自分の立場を守る必要上、残酷さを一挙に用いて、その後それに固執せず、できる限り臣下の利益になる方法に転換した場合をいう。
一方、下手に使われたとは、最初に残酷さを小出しにして、時が経つにつれて、ますます激しく行使する場合をさす。
つまり、加害行為は、一気にやってしまわなくてはいけない。そうすることで、人にそれほど苦汁をなめさせなければ、それだけ人の恨みを買わずに済む。
これに引きかえ、恩恵は、よりよく人に味わってもらうように、小出しにやらなくてはいけない。
ところで、風向きが変わり、必要に迫られ、いざ急に危害を加えようとしても間に合わない。
また、そうなってから、恩恵を施したりすれば、いよいよ最後のあがきとみられ、あなたの支えにならず、誰もあなたに恩義など感じない。
第9章 市民型の君主国
市民型の君主国には、民衆が支持してなる時と、貴族の支持を受けてなる時がある。
民衆は、貴族の命令や抑圧を受けるのを嫌う。
一方、貴族は民衆に命令し抑圧することを望む。
そして、貴族の支援を受けて君主の地位についた者の方が、君位の維持が困難となる。
なぜなら、貴族の支持で仕立てられた君主の周りには、君主と対等だと思い込む仲間(貴族)が大勢いて、君主は気ままに命令・操作ができないからである。
これに引きかえ、民衆の支援で君位についた場合、君主は1人自由であり、周囲に不服従の者がいても少数である。
つまり、君主に起こりうる最悪の事態は、民衆から見放されることである。
一方で、一時的に貴族を敵に回したとしても、貴族は機を見るに敏であり、したたかだから、常に保身に先走って、勝ち目のある方に取り入ろうとするから問題とならない。
さらに、貴族の態度を2つに分けて見てゆく。
それは、貴族が、あなたの運命と全面的に関わって身を処しているか、否か、ということである。
しっかりと、あなたと結びついていて、しかも強欲でない人であれば、賞揚し大切にすべきである。
つぎに、結びつきを持たない貴族については、さらに2つの態度に分けて調べなくてならない。
1つ目は、彼らが小心や生来の意気地なしのために、関係を避けている場合である。
このとき、一廉の見識を持つ者は登用しなくてはいけない。
なぜなら、あなたが隆盛に向かえば、彼らはあなたを尊敬するし、仮にあなたが逆境に陥っても、恐れるに値しないからである。
2つ目は、野心的なわけがあってついてこない者で、君主はこういう者を警戒し、公然の敵とみなして、恐れなくてはならない。
ところで、貴族の後押しで、民衆の意志に反して君主についた者は、民心を掴むように努力をしなくてはならないが、民衆の保護にあたれば、それは難しいことではない。
また、市民は、平時にあっては、誰もが皆はせ参じたり、忠義を約束してくれる。
死がはるか彼方にあるときは、誰もが、わが君のために死をも辞さない、といってくれる。
だが、いざ風向きが変わって、君主が本当に市民を必要とするとき、そんな人間はめったに見つかりはしない。
したがって、賢明な君主は、いつ、どのような時勢になっても、その政権と君主とが、市民にぜひとも必要だと感じさせる方策を立てなくてはいけない。
②民衆の支援により君主になるときは、民衆に見放されないようにしておけばよい
③貴族は勝ち馬に乗ろうとしたたかだ
④貴族で、小心者かつ識見を有する場合、重用すべき
⑤貴族で、野心家の場合、敵とみなすべき
⑥市民は時勢によって態度が変わるから、常に必要とされる方策を立てるべき
第10章 様々な君主国の戦力を、どのように推し量るか
君主国の性質を調べるにあたって、独力で守っていける国か、それとも別の第三者の支援が必要になる国かという観点が必要である。
後者は、野に出て敵と対峙することができず、城塞に引きこもって敵勢を迎え撃つものをさす。
この場合について助言すると、こうした君主は自身の都市の城壁を強化して、備えを堅固にすること。また、城外の野戦のことなど全く念頭に置かないこと。
市民が城外に個人の財産を持っている場合、私財が焼け落ちるのを見たら、我慢しきれなくなろうという意見もあると思うが、敵軍が村落を燃やしたり壊したりする時点では、城内の市民は防衛に意欲的である。
数日たってその士気が冷めるころ、臣下はすでに痛手を受け、打つ手がなくなってくる。
しかし、ここまでくると、彼らは君主との結びつきを一段と強めてくる。
なぜなら、君主を守ろうとして、我が家が焼かれ財産が無一物になったのだから、君主はさぞ我々に恩義を感じてくれると信じるからである。
第11章 教会君主国
教会君主国は、宗教に根差す伝統的な制度に支えられている。
なので、実に強固な体制であって、君主がどんなやり方をしようが、どう暮らそうが、政権の維持はゆるがない。
第12章 武力の種類、なかでも傭兵軍
君主が国を守る戦力として、傭兵軍を国の基礎におけば、将来の安定どころか維持もおぼつかなくなる。
傭兵は、無統制で、野心的で、無規律で、不忠実だからである。
傭兵隊長には、熟達した人物と、そうでない人がいる。
仮に逸材であれば、信頼するわけにはいかない。
なぜなら、彼らは、雇い主のあなたを圧迫したり、あなたの意志に背いて、別の勢力まで制圧してしまったり、決まって身の栄達を望むからである。
一方で、実力のない傭兵隊長であれば、無論あなたは破滅に追いやられる。
第13章 外国支援軍、混成軍、自国軍
役に立たない戦力として、外国からの支援軍がある。
他の有力君主の軍隊は、それ自体は役に立ち、悪くないのだが、おおかた招いた側に禍を与える。
なぜなら、支援軍が負けると、あなたは滅びる。一方で、支援軍が勝てば勝ったで、あなたは彼らの虜になってしまうからだ。
ところで、賢明な君主は、自国の軍隊に基礎をおく。
他国の兵力を借りて手にした勝利など本物ではないと考えて、第三者の力で勝つぐらいなら、独力で負けることを願った。
悪い事例を挙げると、フランス王国は、歩兵をすべて廃止したため、騎兵は、他国の歩兵の支援を仰がねばならなくなり、結果的にスイス兵に名を成さしめて、フランス全軍を弱体化させてしまった。
彼らフランス騎兵は、常にスイス歩兵と協力して作戦を起こす習慣がつき、スイス兵がいなくては勝てないと思うようになった。
つまり、自らの武力を持っていなければ、どんな君主国であっても安泰ではない。
いやむしろ、ひとたび逆境ともなれば、自信をもって国を守っていく力がないから、何事につけ運命任せになる。
・多少苦しくても、自己のチームにノウハウや実力が付くよう努めること
第14章 軍備についての、君主の責務
君主は、戦いと軍事上の制度や訓練のこと以外に、いかなる目的も、いかなる関心事も持ってはいけないし、また、他の職務に励んでもいけない。
なぜなら、君主が、軍事力よりも優雅な道に心を向けるとき、国を失うのは明らかだからである。
非武装化が、あなたに及ぼす弊害は様々だが、特に、あなたが人に見くびられることが弊害である。
武力のある者とない者とでは雲泥の差がある。
例えば、武力のある者が武力を持たない者に進んで服従したり、武力を持たない者が武力を持つ従者たちに囲まれて、安閑としていられることなどはあり得ない。
こう考えてみると、君主は、片時も軍事上の訓練を念頭から離してはならない。
そこで、訓練には二つの方法がある。
一つは行動によるもの、もう一つは頭を使ってするものである。
第15章 人間、ことに世の君主の、毀誉褒貶は何によるのか
何事につけても、善い行いをすると広言する人間は、よからぬ多数の人々の中にあって、破滅せざるを得ない。
したがって、自分の身を守ろうとする君主は、良くない人間にもなれることを習い覚える必要がある。
そして、この態度を必要に応じて使ったり使わなかったりしなくてはならない。
人間は、人間である限り、裏表がなく、堂々としているといった、誉めそやされる気質だけをそなえて、完璧に守っていこうとしても、それはできない相談である。
なので、君主たるものは、用心深く、地位を奪われかねない悪徳の汚名だけは、避けるべきである。
一方、君位の簒奪とは縁のなさそうな悪評については、避けることが難しいのであれば、さほど気にせず成り行きに任せるがいい。
しかしながら、一つの悪徳を行使しなくては、政権の存亡にかかわる容易ならざる場合には、悪徳の評判など、かまわず受けるがよい。
というのは、美徳の評判となることを行っても身の破滅に通じる場合があり、他方、表向き悪徳のような行いでも、自らの安全と繁栄がもたらされる場合があるからだ。
第16章 気前の良さとケチ
気前の良さとケチの二つの気質のうち、まず気前の良さを取り上げると、気前の良い人物とみられるのは確かに良いことだろうと思う。
だが、気前の良いふるまいをするのは、かえってあなたに害になる。
なぜなら、大勢の人々の間で、気前が良いという評判を通そうとすれば、自分の全財産を使い果たしてしまうからだ。
その上なお、評判を守り続けようとすれば、どん欲になって金銭を得ようと躍起になる必要がある。
こうなると、領民に恨まれるようになり、誰からも尊敬されなくなる。
英邁な君主は、ケチだという評判など、少しも気にかけてはならない。
それは、領民の物を奪ったりしないためにも、自己防衛のためにも、貧乏になって見くびられないためにも、仕方なく強欲に走らないためにもそうすべきだ。
君主が軍隊を率いて進撃し、勝利品を得て、他人の物を勝手に処分する場合は、寛大であっても構わない。
それはあなたの評判を落とすどころか、一段と高める。
しかし、あなた自身の財産を浪費すれば、貧乏になって、蔑まれるか、貧困から逃れようとして強欲になって、人の恨みを買うのが落ちである。
つまり、悪評どころか恨みを買うぐらいなら、悪評だけもらって恨みを買わない、ケチに徹した方がはるかに賢明であろう。
第17章 冷酷さと憐れみ深さ。恐れられるのと愛されるのと、どちらが良いか
どの君主にとっても、冷酷さなどでなく、憐れみ深いと評される方が、望ましいことに違いないと思う。
しかし、恩情にしても、下手なかけ方をしないように心掛けなければいけない。
冷酷さが、地域の秩序を回復させ統一し、平和と忠誠を守らせる結果につながる。
なので、君主たる者は、自分の領民を結束させ、忠誠を誓わすためには、冷酷だなどの悪評を何ら気にかけるべきではない。
ほかの議論として、恐れられるのと愛されるのと、どちらか一つを捨ててやっていくとすれば、恐れられることを選んだ方がはるかに安全である。
それは、人間が恐れている人より、愛情をかけてくれる人を容赦なく傷つけるものであるからだ。
人間はもともと邪であるから、ただ恩義の絆で結ばれた愛情などは、自分の利害のからむ機会がやってくれば、たちまち断ち切ってしまう。
ところが、恐れている人については、処刑の恐怖が付きまとうから、あなたは見放されることがない。
君主は、たとえ愛されなくてもいいが、人から恨みを受けることがなく、しかも恐れられる存在でなければならない。
なお、恨みを買わないためにも、財産の喪失は忘れがたいものだから、特に他人の持ち物に手を出してはいけない。
第18章 君主たるもの、どう信義を守るべきか
君主にとって、信義を守り公明正大に生きることがどれほど称賛されるものかは、誰もが知っている。
しかし、信義に基づく君主より、信義などほとんど気に掛けない君主の方が、むしろ大きな事業をやりとげている。
人間は邪悪なもので、約束を忠実に守るものでないから、他人に信義を守る必要はない。
言い換えると、君主は、信義を守るのが自分に不利を招くとき、あるいは約束したときの動機が既に無くなれば、信義を守るべきものではない。
約束の不履行について、もっともらしく言いつくろう口実など、その気になればいつでも探せる。
なぜなら、君主はどこまでも慈悲深く、信義に厚く、裏表なく、人情味にあふれ、宗教心の厚い人物と思われるように心を配れば、大衆は常に、その外見や出来事の結果だけを見て判断するからである。
第19章 君主は軽蔑され憎まれるのをどう避けるか
君主が一番大きな恨みを買うのは、臣下の財産や婦女子に目を付けたり、略奪することである。
一方、軽蔑されるのは、君主が気が変わりやすく、軽薄で、女性的で、臆病で、決断力がないとみられることである。
もっとも、軽蔑されることを大いに警戒しなくてはならず、自分の行動の中に偉大さや、勇猛心、重圧さ、剛直さなどが窺えるように、努力しなくてはならない。
そして、君主について回る憂いの一つに、臣下によって引き起こされる内憂があるが、最も有効な対策は、民衆の恨みを買わないことである。
なぜなら、君主が民主の厚い信望に支えられているとなれば、どんなに向こう見ずな人間でも、とても謀反にはふみきれないからだ。
よって、君主は、恩恵を与える役は進んで引き受け、憎まれ役は他人に請け負わせればいい。
また、ここで心得ておきたいのは、人に恨みを受けるのは、悪行だけでなく、善行からも生まれるということだ。
第20章 君主たちが日夜築く城塞や、その類のものは有益か、有害か
君主によって、国の安全保持の対策は様々である。
例を挙げると、
領民をことごとく非武装にした君主。
統治下の諸都市の分断を図った君主。
仮想の敵を作ったり、あるいは、政権の当初に、自分に不信感を持った連中を懐柔しようと努めた君主。
城塞を築く君主。
城を廃墟とし破壊する君主などである。
それぞれの対策を総括的に論じてみよう。
領民の非武装を見た新君主は、きまって彼らを武装させた。
それは領民を武装させれば、その兵力がそのまま自身のものになるからである。
そのうえ、下心を持っていた者が忠実になり、もともと忠誠を誓った人々もそのままの形で引きつけておける。
こうして単なる領民が支持者にかわる。
これに引きかえ、領民の武装を解除してしまうと領民の心を傷つける。
なぜなら、領民を警戒し、臆病風に吹かれ、あまり信用がないといった心境を露呈したことになるからだ。
また、領土で内輪もめを起こさせる政策は、上手くいくとは思えない。
勢力の弱い側が、きまって外国勢力と通じるため、強い側が対抗できなくなる。
こんな内紛都市は、敵が押し寄せてくればたちまち奪われてしまう。
一方で、賢明な君主は機会があれば、策をろうしてでも、わざと敵対関係をこしらえ、これを克服することで勢力の拡大をはかる。
ところで、新君主が経験するのは、政権の当初に疑わしくみえた人物の方が、初めから信頼していた者より忠誠心が深く、より役立つことである。
これは、君位についた当座、敵意を抱いた人々は、一度立てられた悪評を行動で打ち消したい、切羽詰まった気持ちを持っているから、君主に忠勤をはげまざるを得ないことによる。
また、従来、敵の急襲に備える安全な避難所を確保するため、城塞を築く習わしがあった。
しかし、城塞がなければ、二度と国を奪われる心配はないと判断することもできる。
つまり、城塞は時として、有効とも有害ともなりえる。
②都市を分断するのは愚策
③外敵をつくり勢力を伸ばす
④家臣の心理を利用
⑤有効な手段でも、時に有害になる
第21章 君主が衆望を集めるには、どのように振る舞うべきか
君主が衆望を集めるためには、何よりも大事業(戦争)を行い、自らが類まれな手本を示すことが重要である。
そして、君主は、この人物を支持し、あの人物は敵視するということを、なんのためらいもなく打ち出すことを通じて、尊敬されるのである。
仮に、あなたの近隣の二人の強者が、殴り合いを始めたとすれば、いずれどちらかが勝利を掴む。この勝利者は、あなたにとって、怖い存在か、怖くない存在かのいずれかである。
どちらに転ぶにせよ、あなたは自分の立場を明らかにして、堂々たる戦いをやる方が、より有利である。
もし、怖い存在が勝利者となる場合、あなたが立場を鮮明にしておかなかったなら、必ず餌食になる。決断力のない君主は、多くの場合中立を選び、おおかた滅んでいく。
逆に、立場を鮮明にした場合、もし、加勢した方が勝利を握れば、勝者はあなたに恩義を感じる。
また、仮に加勢した方が負けた場合でも、いつか再びめぐりくる運命の同伴者ともなろう。
第22章 君主が側近に選ぶ秘書官
ある君主の頭脳の良し悪しを推測するには、側近を見ればいい。
側近が有能で誠実であれば、その君主は聡明だと評価してまちがいない。翻って、側近が有能でなければ、どうあってもその君主に良い評価を与えるわけにはいかない。
君主は秘書官の人物を知り、絶対に間違わないように見分ける必要がある。
秘書官が君主のことより、自分のことをまず考え、どんな行動にも私益を求める人物と映れば、決して良い秘書官といえないし、気を許すわけにはいかない。
一方、君主は、秘書官に忠誠心をもたせるために、名誉を与え、暮らしを豊かにし、恩義をかけ、栄誉と責務とを分かち合って、彼の身の上のことを考えてやらなければいけない。
第23章 へつらう者をどのように避けるか
君主は、重要な決断をする場合、国内から幾人かの賢人を選び出して、彼らにだけ自由に真実を話すことを許す。
そして、君主の下問の事柄に限り、他の議論を認めないことにする。
彼らに、諸般の事項について訊ね、その意見を聴いたのち、君主は、自分独りで思いどおりに決断を下さなくてはいけない。
こうした助言を得る際に君主は、個々の助言者が、率直に話せば話すほど歓迎されることを、十分くみ取ってもらえるように対応しなくてはいけない。
これ以外のやり方をすると、雑多な意見が出てやすく、やたらに説を変えて、君主の評判がガタ落ちになる。
聡明でもない君主が複数の人の意見を徴していると、結局、まとまった助言が得られないことになろう。
また、それを自分の頭で、うまくまとめることもできかねよう。
そのうえ、助言者はそれぞれ私利私欲を考えるから、君主は、彼らの意見をどう修正し、どう受け入れていいかわからなくなる。
第24章 イタリアの君主たちが、領土を失ったのはなぜか
凪の日に、しけの事など思ってみないのは、人間共通の弱点であるように、君位についていたイタリアの諸君候もまた、平穏な時代に天候の変わることをまったく考えなかった。
いざ雲行きがあやしくなると、逃げすことだけ考えて自国の防衛など思いもしなかったのだ。
第25章 運命にどう抵抗したらよいか
全面的に運命に依存してしまう君主は、運命が変われば滅びる。
一方で、自分のやり方を時勢と一致させる人は成功する。
ところが、時代の状況に即応できる賢明な人間はなかなか見当たらない。
その理由は、ある道を進んで繁栄を味わった人は、どうしてもその道から離れる気になれないからだ。
第26章 イタリアを手中におさめ、外敵からの解放を激励して
はたして現在のイタリアに、新君主が名声を挙げるのに適切な時代がやってきているかどうか。
思うに、新君主にとって万事が願ってもない状況にあって、行動を起こすのに今ほど適切な時節はかつてなかったといえよう。
息絶え絶えのイタリアは、今自らの傷をいやしてくれる人を待ち望んでいる。
運と力量を兼ね備え、神とローマ教会の恵みを受けて盟主と仰がれる栄光あるご一家のほかイタリアの期待に応えられる人がどこにあろうか。
おわりに
マキャベリの君主論は、露骨に実行すると、今の時代に合わないと非難される部分が多くあると思います。
しかし、人間の本質を捉えており、マキャベリの視点を持っておくことは、非常に重要だと思います。
参考にした図書は下に2冊です。
君主論の和訳の参考として、
とても分かりやすい入門書として、
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